長いお別れ

布団に入ったひとの体を登ったり降りたりするのが老齢のニャンギーの唯一の遊びだったが、最近はさらに筋力が落ち、登ったきりになってしまった。
登って胸の上でスフィンクス座りをして私の顔を見下ろす、そしてのどを鳴らすのが楽しいようである。
これはもう様式化されていて、23時をまわるとニャンギーはうろうろしだす。私が布団に入るとニャンギーもやってきて、胸の上(というよりほぼ鎖骨の上。かなり苦しい)でのどを鳴らす。

「サヨナラ」
「さよなら」
「サヨナラ」
「明日もいる?」
「ワカラナイ」
毎夜毎夜、サヨナラをするのだ。長い長いお別れである。私は安田有のスーパーヒーローの墓場を思い出す。

明日
明日
明日がない。

そしてまた茶の間へ戻ってゆき、トイレをして気が向けばカリカリも食べ、ベッドに戻って来る。布団に入って、腕の中で眠る。ここ数日体調がよかったようで、6時には起き出して、7時には人を起こしに来たが、今日は眠かったのか、8時すぎまで布団にいた。呼吸している様子がなくて、ああ、ついにと思ったが、まだ今日は生きている。明日はあるのか。明日はどっちだ。
金曜日はよく晴れて暖かかったので、外を散歩させてやれた。自主的に脱走もしたし、草も食べた。ずっとお別れをしている。