あらためてカウントしたら

15人そこそこしかいない私の生徒の約半数が情緒、あるいは学習習慣に課題を抱えている。知性は年齢なりであるかそれより高いのだが、情緒面で幼いケースが多い。多すぎて私が虚言を疑われるレベルだが、オホーツクの英語教育界隈には実際発達障害をかかえる子がとても多い。全国的には英会話はかなり過熱気味で「英語をやらなきゃ!やらせなきゃ!」(ちょっと落ち着け)という状況であるなか、オホーツクの一般家庭は「日本に来たなら日本語を話せ!」と未だに言っている感じだ。もう相手にする気もおきない。そして発達に課題のある子どもを持つ親が「だからこそ英語力を」という動機でやってくるケースがとても多いのである。

基本的にマンツーマンなので、毎度毎度その子たちの予測できない行動や一貫性のない衝動的な発言、突如として吹き上がる不機嫌が全部私に集中して、かなりダメージをくらう。私も後天的なADD(注意欠陥障害)だけれども、示せる理解には限界がある。
彼らは基本的に刺激にとても弱く、常に表面張力いっぱいいっぱいで、ちょっとしたことで感情がぶわっと溢れる。予定が変更することを極度に恐れ、あと何分で終わるのか、授業が今どこまで進んだのか何度も確認する一方、自分は遅刻する。状況を自分がコントロールしていることに執着するのだが、授業というものは基本的に教師が主導権を握らねばならないので、彼らのそういう性質と相いれない。「時間はちゃんと調整するからじっくり取り組みなさい」と指示しても「この問題は早くやりたいんです!」と主張してものすごいスピードで解き、10問中9問不正解になってやり直して倍の時間をくったりする。

とてもプライドが高い。これは基礎的なセルフコンフィデンスがないことの裏返しである。善悪の基準を世間の一般常識にゆだねていて、自分に被害がないにも関わらず「間違っていること」に怒ったりする。あるいは異常なまでに無関心だったり冷淡だったりして、どちらにしても「そうだよね、そう思っちゃうよね」と共感できるケースがほとんどない。話題のニュースには世論に従った反応をする。多数派でいることを選んでいるように見える。
その年齢ならわかるはずの不文律が通じないことも多い。遅刻する時に「少し遅れます」と事前に連絡して了承を得た場合、その少しはせいぜい10分程度であると私は思うのだが、1時間の授業に40分遅刻してやってきたあげく宿題を忘れたことがわかり、その途端眠いとぐずりだし、「だって少しなら遅れていいってお母さんが言ってた!」と主張する。この時はさすがにやりきれなかった。こちらはいつまでも来ないので事故を疑って探しに出たのである。

あるいは怠学の傾向がある。まるで何かへの復讐であるかのように頑として勉強しない。できないのではなく、単純にしない。ただ淡々とやればいいだけのことをここに来る30分前まで先延ばしにする。私は本当に、無意識の復讐ではないかと疑っている。この生徒は怠学傾向にも関わらず、英語だけ成績がのびてしまって、今退塾するかどうか自分で決める段階にきているが、辞めたくはないらしい。
意識を失うほどの凄まじい眠気に襲われる生徒もいる。目の焦点があわず、会話ができない。本人も問題意識を持っているのだが、いかんせん生理現象なので歯が立たない。まるでチェーホフの「眠い」だ。熟睡できる生活環境ではないのかもしれないが、そこまで聞きだせるほどまだ親しくない。親しくなるような会話ができない。

またある生徒は毎週毎週私にマインクラフトをすすめてくる。「やらないしハードもないし買わないし、やらない」と毎回言ってるのだが、「月に800円出せますか?」出せるけれども出したくない。私のお金を何に使い何に使わないかは私が決めます。「塾の収入って月謝の半分ですよね?だったら〇万円出せるんじゃないですか?」収入のうち家賃、ガソリン代、電話代をひいたらマイナスです。私は定期を崩して運営にあててます。「でも旦那さんが…」いません。「えーっいないんですかー!!(すごい大声)子どももいないんですかー!!」セクハラです。「なんでですか!!!」あのさ、私が不妊症だったらどうすんの?「不妊症なんですか!!!?」
授業を中断して身体に関することには慎重に、としばらく話をしたのだけれども、まあ、焼石に水。マインクラフトはやらない。もう半年ずっと言ってる。先々週ついに「マイクラ禁止令」を出したんだけども、そしたら今度は「マイクラの話になっちゃうんですけど」って枕詞を置いてから切り出すようになってきた。もうどんだけ好きなんだ。

マインクラフトは箱庭に似た要素があるし(そのくらいは知ってる)面白いならやったらいいと思う。でも私はやらない。その子は熱心にyoutubeのマイクラ動画を勧めてくるけれども、どれもこれもイラッとするような実況音声で、本当に私はマイクラそのものを永遠に憎みつつある。