オードリーライク

ローレン・バコールが亡くなった。私にとっては「百万長者と結婚する方法」の主演女優として印象深い人である。

たまに、バレリーナとか女優とかモデルとかを形容するのに「オードリー・ヘップバーンを思わせる」という表現を見かける。私は勝手にAudrey-likeオードリーライクという形容詞を作っていて、今だとフィンランドバレリーナ、マリア・エリザ・バラノワがなかなかオードリーライクだなと思っているのだけど、こういうふうに共通言語として存在が残る女優というのはすごいなと思う一方、決してそのようになりえない、なる必要がないのがローレン・バコールではなかろうか。あの独特の気品と美貌はほかの人にはなかなか出せないし、彼女は彼女一人でいいのだ。

一方で後から後から「第二の」が生まれるのにどいつもこいつもなのがマリリン・モンロー。人々の心にはオードリー・ヘップバーン枠があり、そしてそれはある程度他人にも代替可能なのである。ローレン・バコール枠は彼女一人ですでに埋まっており、彼女の死後も空くことはない。かつてローレン・バコールがいたという事実をもって完結する。永遠に埋まらないのがマリリン・モンロー枠である。その枠は彼女の悲劇的な人生と、彼女の生きたあの時代もこみで形作られているので、ほかの誰を持ってきても決して埋まることがない。私は本田美奈子と「1986年のマリリン」が嫌いだった。あれを作詞した秋元康も嫌いだったが、今現在さらにものすごくとても嫌いだ。

買っただけで満足していたマリリンのムックをなんとなくさっき開いたら「『紳士は金髪がお好き』で一番有名なのが黒いドレスで踊る…」などと書かれていて、見ないで記事を書いてるな、とどんより。もう開くことはあるまい。「紳士は金髪がお好き」を見たことがなくても、誰もが知っているのがあの「ダイヤは女の最良の友」であり、ドレスは全身どピンクである。

このナンバーももちろんいいが、わたくし的にはジェーン・ラッセルと一緒に歌う「恋がうまくいかなかったらもうなんにもうまくいかない」や、ジェーン・ラッセルのソロ「誰か私と恋をしない?」(どちらのタイトルも私が勝手に邦訳しています)が好きです。