危険地帯に行く方が悪いというが

危険地帯を危険地帯にしているものの責任を最初に問わないことにまず疑問を持つべきだ。

鍵をかけなかったから泥棒に入られた、というのは確かに不注意である。だが不注意はただ単に不注意であって、それ自体は犯罪ではない。不注意に付け込んで人の家に侵入し、ものを盗む、これが犯罪である。これらは分けて考えねばならない。

夜道を歩いて痴漢にあったら、確かに不注意である。だが不注意はただ単に不注意であって、痴漢は犯罪だが不注意は犯罪ではない。女も悪いと言う前に、痴漢は一人の人間であり、いきなりふってわく天変地異や言葉の通じない怪物ではないことを認識しなくてはならない。

私の母方の祖父は満州ソ連軍にとっつかまってシベリアに抑留され数年間生死不明であった。ソ連満州制圧は敗戦直後の事件であり、すでに白旗を振っている国の、それも民間人に対して行われた犯罪である。祖父は軍人であった。だが祖父のシベリア抑留について「軍人だったなら仕方ないよね」と言われたことはついぞない。

湯川さんと後藤さんは民間人である(湯川さんは武器を携行していたそうだが)。危険地帯に自ら赴いたのは確かに自分自身の選択だろう。しかし、いちおう世の中は、戦争している関係の国どうしでも、捕虜に非人道的なことはしちゃいかんことになってるんですよ奥さん。日本は戦時中にめりけん捕虜にゴボウ食わしたかどで「捕虜に木の根っこ食わしたな!非人道的扱いをしたな!」とか言われてるんですよ。

私は「痴漢にあうのは女が悪い」と「危ないところに踏み込んでいったんだから自己責任」は同じだと思ってる。どっちも「救済の必要はな」く、加害者と被害者の両者を人権と責任能力、交渉の余地のある人間として扱わず、どちらかだけが人間で、他方を責任能力のない白痴か、神の怒りのような天変地異、もしくは怪物のようにとらえている。それは考え違いだし、そもそもその根っこにあるのは「私の視界にいやなものを持ち込まないで」「私は私の世界は今のままでパーフェクトだと思ってるから、それを壊さないで」といういちばん身勝手な考えだと思ってる。

危ない場所に行って危ない目に合うのはそりゃある意味自然ななりゆきだと思うよ。少なくとも私は行かない。でも、危ない場所を危ないまま放置して「俺らは関係ないもんね」「普通に暮らしていれば関係のないこと」だと思うんなら、せめて余計なことは言わなきゃいいじゃないの?