夜明けのバンバン

ダルちゃんには夜明けに何かをバンバンする習慣があった。

何をバンバンしてるかわからず父とふたりで首をひねっていたが、そのうち、ドアの一つにひっかけてある、「洗濯物たかいとこに干すとき用ぼっこ」をジャンプしつつ手でちょいっとひっかけて持ち上げていたことが判明した。浮いたぼっこがドアにあたってバン!と鳴っていたのだ。

それを見破ったからなのか、ダルちゃんは今朝いってしまった。

いつもどおり、ドアをバンバンした後、朝の屋内短距離走をして、ごはん場に行き、死んだ。
父の叫び声で私が起きたときはまだ心臓が弱く速く動いていて、あわてふためきつつハイムリックと人工呼吸を試みたけど、自力で呼吸を回復することはできなかった。瞳はみずみずしく、大変可愛らしかったが、朝の光の中であんなに黒々とした瞳であるのは、思い返すとおかしいのだ。
取り乱しながら、私は「そういえばこのあたりで動物の夜間救急外来って聞かないな」と昨夜思ったことを思い出した。未練がましく調べたけれど、やはりなかった。

ダルちゃんは父が、網走湖畔の森で犬を逃してしまった時、探して犬の名前を呼んでいたら森の中から走ってきた仔猫であった。犬は帰らなかった。詩のようにやってきた猫は詩のように死ぬ。明日には骨になる。死因は調べない。火葬車の火はどんど焼きだ。煙とともにもときたところへ返すこととする。父のことが好きで好きでしかたのない猫であった。